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【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす ㉓春からの手紙

Update : 2021.01.31
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薪スト-ブの横にある椅子に座り本を読んでいると、空からうねるような風の音が聞こえてきた。そろそろ犬と散歩に出かける時間だが 、その瞬間、急に怖くなり今夜はこのまま寝よう、と心の中で犬に話しかけた。犬の方も散歩をせがむ気配もなく、そのままお互いさっさと寝床に入ってしまった。

夜が明ける。

A

昨日の風が嘘のような晴天だが、農園のハウスのビニ-ルが吹き飛び、めくり返っていた。そのビニ-ルの一部が枝に引っかかり青い空に小さく舞っている。農園のオ-ナ-にそのことを告げると、気が付かなかった、と一言残してハウスの方に歩いて行った。昨日の夜の様な激しい風が、毎年かならず何回か吹き、幾度となくハウスのビニールを飛ばす。自然の力はしばしば人間の想像を大きく超える。

 

家に帰ると明るい日差しが窓から差し込んでいた。南向きの大きな窓から見上げる空は青く、反対側にある台所の小さな窓から見える空はグレー、雲の流れが速い。今日は晴天、と喜んでいたのも束の間、雲の運動会に合わせて、春を思わせるような陽気もじっとしてくれない。調子の狂った街灯に照らされているかのように、食卓は明るくなったり暗くなったりしている。

 

鳥の声が聞こえる。

B

林檎の木につるした餌箱にちょこんと一羽のシジュウガラが乗っている。

春を告げる鳥、シジュウガラ。みるみるうちに他の仲間も加わって、木の下に落ちている黄色い林檎をつつきだした。見え隠れする陽をあびながら空中で忙しそうに羽を動かし、すいすいと風に乗り、あっという間にどこかへ行ってしまった。

 

C

ある年、この時期に街の花屋で見つけたミモザの花を衝動的に買って帰ったことがある。南仏産のその黄色いミモザを見ていると、海岸沿いの高台に果てしなく続くミモザの森が鮮明に脳裏に浮かび、無性にその南のやさしく華やかな春が欲しくなったのだ。

 

ここの今の庭には南仏のミモザのように、モノト-ンの景色を劇的に変えてくれるものはない。ただ小さな兆しがあるだけだが、それが心の中にぽっと明かりを灯してくれる。

D1

D2

裏庭の端っこにある普段は誰も気にしないような老木、その木の節目から吹き出している薄緑の新芽。スノ-ボ-ルやライラックの枝に見えるポッコリとかわいい赤色の芽。ムスカリや水仙の葉っぱも姿を見せ始めたばかりだ。

E

そんな微かな変化に気が付いた時、早く春が来てほしい、と待ち焦がれている私に、もう少しだよ、そんなに急いでどうするの、と植物から便りが届いたような気もする。

 

F

老木の足元にクリスマスロ‐ズが慎ましやかに咲いているのを見つけた。

もう少しすれば球根にも蕾がつくだろう。

 

春からの手紙はゆっくりと手漕ぎボ-トに乗ってやって来る。

 

 

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【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/

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