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【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす⑰今日は休日

Update : 2020.12.13
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ずっしりと重い田舎パンとコーヒーの朝食を取りながら白紙の一日を始める。
噛みしめるごとに甘さと酸味が口の中に広がる。このパンは本当においしい。

A

ふと壁の方に目をやると窓際のバラの長い枝がぼんやり映り、ゆっくり揺れ動いていた。
植物が遊びに来てくれたようで何だかうれしい。

B

外がとびきり明るくなったのを感じ、よしっ、と気合を入れ裏庭の塀に伸び放題になった蔦を切りに出る。急いでいる訳でもないのだが太陽に照らされたくて庭に出た。
放っておくと、どこまでも伸びる蔦の生命力はものすごく、冬の間もつやつやとした緑と実をつけ、ここぞとばかり生き生きとしている。

長く伸びた枝から出る根があちこちに張り付き、なかなか取れない。
格闘の末に切り取り、山となった蔦をコンポストの一角へ持ち運ぶ途中、地面に茶色い実を見つけた。
マロニエの実。それを幾つか拾いポケットに入れた。

マロニエの実をいつも身に着けていると風邪をひかない。

ある日、ひょんなことから知り合いにそんなことを教えてもらった。
乾燥してくると又新しいものに取り換えるといいらしい。
なんとなく始めてみると、着替えの際に机の上に置いて忘れてしまうことが多く効果の真相も分からないが、ちょっとした間にポケットから取り出して手で触ると気分が和む。

不思議なお守り。

C

つるつるした表面とごつっとした丸み、拾ったその実はどこか滑稽な感じもした。
同じものなど全くなく逆にその違いにほっとする。
人間も含めた自然の有りのままの姿なのだろう。

D

木の上に鳥の巣が見えた。お宅訪問、辺りの木々をぐるりと見て回る。
冬になると隠れていた巣があらわになり、この庭にはこんなに沢山の巣があったのかと驚く。
この村の住民の人数より鳥の数の方が断然多い。
こんな場所に作られているのか、と思うものやら、大きさや形も様々でその出来具合は皆、何とも芸術的だ。

この春、家のすぐ裏の木に鳩が巣を作った。
毎日そっと覗きに行くと、親鳩は一カ月以上の間動かずにじっとそこにいたことを思い出す。
今は空っぽのこの巣に、来春、鳥たちが帰って来て又、大きな卵やら小さな卵が産み落とされるのだろうな、と思う。

E

取り留めのない一日には取り留めのないふとした嬉しさが見つかることが多いような気がする。
それは心の中にあるロウソクにぽっと火がともる瞬間でもある。
計画のない旅を楽しむ為に心の瞳を思いっきり開いていればその瞬間はあちらからやってくる。

ボコッとした豆のような形のリサイクルの硝子の花瓶を見つけた。
いびつな形はどこか愛嬌がある。

F

この花瓶には思い思いに伸びた植物が似合う。

 

 

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【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/

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