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【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす⑱ノエルを待ちながら

Update : 2020.12.20
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カウンタ-の上にあるクグロフにナイフを入れながら今年の1年がもうすぐ終わろうとしていることに気が付いた。
今朝、大家さんがマルシェから買って来てくれたアルザスの焼き菓子クグロフは、ノエル(クリスマス) が近くなると、この辺りのパン屋さんでもちらほら見るようになる。
ある年、アルザスの街で過ごしたノエルのことを思い出す。
無数のイルミネ-ションに飾られた大木のクリスマスツリ-は夢の様だった。

A

数日前、突然寒さがぐっと増した夜明けがあった。

B

凍てつく庭は一瞬にして全てを忘れさせてしまうような魔力がある。
澄みきった静寂の中、ピアニストが奏でる最初の一音、その音に瞬時に心が奪われ、次々と生まれ出る音の粒の虜になってしまうような感覚に似ている。
凍っている植物の姿を見ていると、それぞれの細胞が目の前にくっきりと表れているようだ。
家の中でぬくぬくとしていた自分の何かが覚めた。

ノエルの近くになるとこんな朝が増える。

C

この国に暮らす多くの人びとにとって、ノエルは家族と過ごす大切な日だ。

クリスマスリ-スを注文してくれた方に届けに行くと家の中にはもう、生のモミの木が飾られていた。
キラキラとした飾りつけはされず、ビュッシュと呼ばれる丸太の上にそのままで立っていた。
どっしりとしたおおらかな優しさが感じられるその木の、素の存在感に改めて驚く。
モミのいい香りがほんのりとその部屋に漂っていて、もうそれだけで十分だと思った。
リースを玄関の戸に飾りつけるお手伝いをする。
今年は少人数でのノエルだけれど素敵なリースなので当日はをテ-ブルに飾ることにしようかな、と
語るその人の姿がほほえましく感じた。

 

家族と過ごす暖かい時間。

D (2)

D

ノエルには3世代にわたる家族が一同に集うことが多いのだろう。

モミの木の傍で赤、緑、思い思いの色に囲まれおいいしい食事と飲み物、好きな音楽に囲まれて過ごす。
月並みな風景かもしれない。
人と繋がることが難しかった一年、毎年、当たり前のように過ごしてきたこの時を今年は皆が切望しているように思えてならない。

E

庭には大きなモミの木がいくつも立つている。

一年の間で他の月は全くと言っていいほどその存在を忘れているというのに、この時期はどうしてもあの香りと姿を家の中で感じたくなる。

凍てついた庭が何かを呼び起こすようにモミの木や花がノエルの暖かい時間に寄り添ってくれる。

F

ノエルを待ちながら又一年が過ぎようとしている。

 

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【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/

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