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甘糟りり子さん、50代だからこそ楽しめる、実家の〝整えなおし方〟

Update : 2020.01.10
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甘糟りり子さんが両親から受け継いだ家を、整えなおしながら暮らしています

鎌倉市にあるご実家で、80代半ばのお母様と2人で暮らしている作家の甘糟りり子さん。

昭和初期に建てられた日本家屋はたいへん趣きがありますが、不便もありそうです。どう折り合いをつけて整えなおしているのでしょうか。

稲村ケ崎海岸に近いご自宅を訪ねてみました。

今回は1月号本誌より、一部抜粋してご紹介します。

 

 

■50歳で、立派な古民家を整えなおし始めた理由

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お父様が使っていた合掌造りの書斎を、現在はリラックススペースに。

20代は最新トレンドを追いかける書き手として、作家となった30代以降も都心のマンションでひとり暮らしをしていた甘糟さん。

「42歳で芝浦の高層マンションに引っ越してから、体調を崩してしまって。住まいが自分に合わなかったこともありますが、常にアグレッシブな生き方を強いられる都会の生活にちょっと疲れてしまったのかもしれません。そこで、海の見える鎌倉で暮らそうと、43歳の時に実家に戻ってきたんです。」

ご実家は日本建築の粋を極めた一軒家。昭和初期に別送として建てられた数寄屋造りの家でした。40年近く前に、福井県から合掌造りの古民家の梁を運んできて改装し、さらに、蔵造りの部分も増築。

父が6年前に亡くなり、母も高齢なので、50歳の時から私がこの家の主として管理することになりました。

日本建築のよさを生かしつつ、いかに今の自分の暮らしにマッチさせていくべきか。今も現在進行形で、両親から受け継いだ家を整えなおしている最中です。

 

 

■何はともあれ耐震工事は必要です

整え始めてから、まず手をつけたのが建物の耐震構造を強化することです。

家の中心部にあたる数寄屋造りの和室は『耐震工事』などという概念がない昭和の時代に建てられているので、大きな地震があった後は特に不安でした。数寄屋部分の壁を一度崩し、中に筋交いを入れる工事をしてもらって建物の補強をしました。

安心して暮らせるように、建物を頑丈にすること。古い家に住むうえでは最初にやるのはそこかなと実感しています。

 

 

■古き良きところはなるべく残す
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職人技が光る美しい和ガラスの戸で囲まれた数寄屋造りの廊下。

都会のマンションに比べると、古い日本家屋は住みにくいかもしれませんね。

それでも、今の時代では作ることのできない職人さんたちの手仕事の技が施されている箇所は、古い家ならではの魅力です。せっかくこの家で暮らすのだから、そうした部分は出来るだけ残そうと意識しています。

たとえば、数寄屋作りの廊下を囲む和ガラスの戸。このガラスは一枚一枚手作りで、よく見ると表面が波打っているんですよ。台風対策を考えれば最新のサッシガラスのほうが安心なんでしょうけれど、あえてこの和ガラスの戸のままにしています。

屋根瓦も、安全面でいえば、瓦を下ろしたほうがいいのでしょうが、50年以上も前に職人さんの手作業で作られた瓦は今では作れないですから、壊すのは忍びなくて。

 

 

■ファブリックや小物で自分らしさを発揮
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洗面所にアンティークの麻のタオルをセットして自分らしさを演出。

建物だけに限らず、椅子やテーブルなどの家具や食器も、両親が好きでひとつひとつ集めてきたもので、私もそのまま使っています。

自分なりのアレンジはファブリックを変えることでしょうか。カーテン、フロアマット、ソファカバー、ベッドカバーのような面積の大きいファブリックならより効果的。布なた気軽に取り換えられますしね。

暮らしていて感じるのは、古い家には、和のものに限らず、国内外のヴィンテージ雑貨やアンティークの小物が馴染むということ。両親から受け継いだこの古い家に、これからどんなものをプラスしていこうかと考えるのは楽しいですよ。

参考にしているのは鎌倉にある『オルトレヴィーノ』というインテリアショップも兼ねているイタリアンレストランです。行くたびに、使い込まれることのよさを実感します。こういう食器や小物をプラスすれば、古い家ももっと自分らしくなるんだなというヒントをもらっています。

 

 

■暮らしながら少しずつリフォーム

古い家の場合は、住む前に一気にリフォームするよりも、その家で実際に生活してみて、日々の暮らしの中で少しずつ手を入れていくほうがおすすめです。生活してみると、『ここはこのままでいい』『ここはブラッシュアップしたほうがいい』ということが具体的に実感できますからね。

どうすればもっと心地よい家になるのか、あれこれと思いを巡らせるのも古い家に暮らす楽しみのひとつ。丁寧に建てられた古い家は手をかけていけばいくほど、自分にとって心地よい空間に生まれ変わります。

きっと、若い時だったら、古い実家を整えなおすなんて面倒くさいなあと感じたと思います。でも、古いもの、歴史あるもののよさがわかるようになった50代は〝実家の整えなおし〟を楽しめる年代です。〝家も自分もウェルエイジング〟の感覚で、一緒によりよく年齢を重ねていけるように整えなおしていけたらいいですね。

 

 

 

PROFILE
あまかす・りりこ
1964年、神奈川県生まれ。作家。20代の頃は最新トレンドをとらえるコラムニスト、エッセイストとして活躍。2000年、作家デビュー。同世代のリアルな心情を描いた作品を次々と発表。近著に『産まなくても、産めなくても』。エッセイ『鎌倉の家』など。

 

撮影/吉澤健太 取材・文/内山靖子

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