モキチのブログ 「ひと皿」の向こう側

PROFILE

「モキチ」ことライター齊藤素子。銀座・泰明小学校卒業。OLやギャラリー勤務を経て、
1995年『VERY』創刊時にライター稼業を始める。食や旅のページを中心に雑誌やWEBで活躍中。
その一方で、世界初の腰痛専門WEBマガジン『腰痛ラボ』では編集長を務める。

「スープこそ命」がモットーの繊細な中国料理/ひと皿の向こう側

Update : 2020.04.14
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ダイナミックさと繊細さを併せ持ち、軸足のぶれない軽妙にして深遠な料理を味わうことができる中国料理店がオープンしました。
いくつもの名店で腕を磨いた湯浅大輔シェフによる【新富町 湯浅】。供されるのは「スープこそ命」がモットーの五感で楽しめる中国料理です。
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誌面でご紹介したのはこちら。
黄金色に輝くフカヒレが美しい「メジロサメと黒米団子の上湯スープ」です。
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フカヒレ料理といえば、中国料理の花形。こちらでも、モウカ鮫の尾ヒレの姿煮をメインにしたコースが人気です。
店主の湯浅大輔さんがこれまでいくつもの名店で研鑽を積む中で“気になる”食材だったフカヒレは、天日干し・手作業にこだわる生産者との出会いによって“要”の食材になりました。
“フカヒレ”と一口に言っても鮫の種類やヒレの部位で特徴が異なるのをご存知でしょうか。
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「うちで使っているのはメジロ、モウカ、ヨシキリで、使用する部位も入れると7種類になります。ゼラチン質や香りなど、それぞれに特徴があり、その特徴を生かす調理法やスープがあります。姿煮で使用するのはモウカ鮫の尾ひれ。モウカ=毛鹿と書きますが、鹿の毛のように繊維の細いフカヒレです。メジロ鮫の尾ひれは上湯スープと好相性です」(湯浅シェフ)

ヨシキリ鮫は胸びれをほぐして煮こごり状にしたものを前菜に、背びれは麺料理に使うこともあるそうです。独特の食感も魅力です。
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血抜きして、天日干しにし、骨と皮も外した状態で届くフカヒレは5日くらい煮込み(上の状態で3日目)、上湯で蒸してから冷まして味が入りやすくしてから使うのだとか。とても手間のかかる食材なのです。
丁寧に戻して磨いたメジロ鮫の尾ヒレを、湯浅さんが大切にしているもうひとつの“要”であるスープとともに味わう「メジロ鮫と黒米団子の上湯スープ」。豚の腕肉、牛スネ肉、金華ハム、ローチー(老鶏)を8時間煮込んだ上湯スープ。それをたっぷりと含んだ黒米団子とフカヒレの小気味好い食感が絶妙のバランス。
器が運ばれてきたら蓋はゆっくりと開けてください。蓋を開けると立ち上がる上湯スープの馥郁とした香りの隠し素材がフカヒレの下に隠された“生ハム”。茨城県「塚原牧場」で作られる梅山豚の生ハムの熟成香が上湯スープをウットリする香りに仕上げてくれているのです。

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こちらは「季節の魚と春野菜の蓮の葉蒸し」
明石の真鯛、京都産の春筍、そら豆、北海道産の“月光ユリネ”、京都産の菜の花、京人参、その下にもち米と干し貝柱、黒いソースはフキノトウと豆豉をベースにしたソースです。“月光ユリネ”は長期熟成されて甘みがとても強いのが特徴。苦味のあるソースは春野菜に合います。鯛は身を崩して、もち米と混ぜるようにして食べるのがお勧めです。
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実は湯浅さん、この店をオープンする前に築地市場で3カ月ほど働いた経験があり、その時には毎日とにかくいろいろな魚をおろし、ひらき続け、それがとてもいい勉強になったそうです。
「ついつい使いやすい魚ばかり買ってしまいがちになるのですが、その日にいちばんいい状態の魚を店のアドバイスを受けて仕入れています。あまり使ったことのない魚もありますが、お客様の反応はとてもいいですね」(湯浅シェフ)

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そして、こちらは「黒酢スブタ」
湯浅さんが4年半勤めた【御田町 桃の木】(現・【赤坂 桃の木】)のスペシャリテのひとつ「黒酢酢豚」が原型です。
「この店のオープン時から何回か火の入れ方を変えているのですが、最近は68度で2時間半、といっても低温調理器は使わずに寸胴鍋を使って弱火で68度を保ちながら火入れする、というのに落ち着いています。仕上げに肉の表面をカリッと揚げて、黒酢のソースをまとわせます」(湯浅シェフ)
こちらはナイフを使い、肉を切って黒酢のソースをつけながら食します。
「肉の下にあるのは茨城県産の“シルクスイート”という甘みの強いサツマイモです。ラップでぐるぐる巻きにして90分蒸したら、そのまま冷蔵庫で3日間寝かせます」(湯浅シェフ)
しっとりとしてスイートポテトのような“シルクスイート”は酢豚と好相性。そのほかの付け合わせはなく、とても潔いひと皿です。
「お客様になにかちょっと野菜が欲しいと言われたこともあります(笑)。正直、野菜があったほうがいいかな……と、悩んだこともありました。でも、【御田町 桃の木】の小林武志シェフに教えていただいたことのひとつに『美味しすぎない美味しさ』というのがあります。迷ったときには原点に戻るのがいいと」(湯浅シェフ)

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お酒は、ビール、ワイン、紹興酒、白酒が揃います。ワインは是非、ソムリエにご相談を。紹興酒「古越龍山 陳年8年 茶甕」¥1,200(グラス) 「紅琥珀 無濾過」¥800(グラス)/¥4,000(ボトル)など。

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湯浅 大輔シェフは、大阪あべの辻調理師専門学校卒業後、東京・千駄木【天外天】、三田【御田町 桃の木】(現・【赤坂 桃の木】)、【筑紫樓 銀座店】等で研鑽を積みました。
「【御田町 桃の木】の小林武志シェフに、料理人としての土台は基礎技術や基礎知識だけど、味の土台はスープだと教えていただきました。このことは自分で店を開いてみて、よくわかりました。スープは命。だからしっかり作ります」(湯浅シェフ)
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【新富町 湯浅】
東京都中央区新富2-7-4 growth ginza east 1F
03-6222-8677
平日17:30〜22:30(L.O.20:30)、土・日・祝12:00〜15:00(L.O.13:30)、17:30〜22:30(L.O.20:30) 水曜休
*ディナーコースは¥10,000、¥18,000、¥32,000。
個室あり。2019年2月OPEN

 

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撮影/牧田健太郎 取材・文/齊藤素子 構成/川原田朝雄

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