ベランダの戸を開けるとひらひらと白い蝶が迷い込んできた。
よく見ると2羽。重なっては離れ、ポルカを踊るようにひらひらと円を描きながら飛んで行く。軽快なダンスを目で追って行くと次の舞台へたどり着いた。ベランダのすぐわきの垣根の花に沢山の蝶が忙しそうに羽を動かし蜜を吸っている、その見事な群舞に見惚れていると横で犬がワン,と一声上げた。よいしょ、と白いひらひらを潜り抜け尻尾を振る犬と一緒に庭にくりだした。
7番目の月が始まると暑い夏が突然やって来た。
田舎道を歩き出すと地平線に陽炎のように立ち上がる粉塵が見える。麦が太陽に祝福されるかのように巨大なトラクタ–に刈り取られていく季節。朝の早くから日が暮れるまで天に響く刈り入れ機の音。カラカラに乾燥したほこりっぽい麦の匂い。短く残された植物の茎が果てしなく続く風景はいつ見ても奇妙な砂漠のようでSF映画の一場面を見ているような気がする。
人間も動物も影を探し歩く日々。地球の重力にしっかり引っ張られているような犬と私も、今朝は蝶につられ何となく足取りが軽い感じがした。がたがたと大きな音が聞こえる。収穫された小麦をのせたトラクタ–がすごいスピ-ドでこちらに向かってやってくるのが見えた。慌てて犬を引っ張り道端へ身を寄せた。
池の方へ歩いて行くとその前の空き地にポツンとある木のベンチが見える。今日も誰もそこに座る人はいない。ベンチを守るように白いアキレアがグラミネに交ざりながらぐるりと咲いている。風が吹いている。そんな錯覚に身を任せた。
夏の風景には草花が似合う。
夏のバカンスで芝刈り機が入ることがなければ、庭にも色とりどりの草花があちらこちらに現れ野生のハ-ブも姿を見せる。道端にひょろりと咲くキャロットソヴァ-ジュや背の高い黄色や紫の花、風になびくグラミネ。海辺でも山肌でも夏のヴァカンスに出た人々に寄り添うのはこの花たち。風来坊の花たちの自由な様子を見ているとこちらまで心がふわっと飛びだし軽くなるのである。
窓辺から赤い花が見える。6月の雹の嵐の時に氷水の洗礼を受けたダリアが奇跡のように咲いた。
たくましくそしておおらかな南国の花。
夏の花が暑い夏を踊るように駆け巡って行く。
【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/