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【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす(67)踊る花

Update : 2022.03.27
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お昼。

ベランダの戸を開けて外に出てみると風もなくポカポカ暖かい。太陽が降り注ぐ裏庭。なんだか気持ちが小躍りする、しまいこんでいた丸いテブルを家人と一緒に外に出し、簡単なワンプレトの昼ご飯を運んだ。今年初めての外での食事。フォクを口に運びながら時々眼を閉じると、顔面に当たる陽が身体の奥まで届き、その温かさが増す。ひとしきり熱い湯船につかった時のように、じんと身体も気持ちも緩んでいくのが分かる。久しぶりに味わうこの感覚。一足先に食べ終わった家人が持って来てくれたコと一緒に初物の春の空気を味わった。

目の前にあるカシスの木の枝。2,3日前はまだ縮こまった新芽が出ていただけなのに、この所の陽気で、手をぱっと開けた具合のちゃんとした葉の形まで成長している。良く見ると葉と枝の境目に紫色のつぶつぶの花芽までがちょこん、とついているではないか。そのカシスの実の赤ん坊を見ているだけで、ぱっと時間がワ‐プしあの甘酸っぱい味と香りが全身を駆け巡った。その後ろ側に見えるのは、緑の丸い葉と黄色い小さな野草の花。地球がくるりと回り又この花がここに戻ってきた。冬の間、茶色の落ち葉が守ってくれていた土。そこから生命のバトンを受け取り、みどりと黄色が一面を覆い尽くす。

昼ご飯を済ませ犬と一緒にポタジェへ向かう。

この調子だともうしばらくすれば野菜の種をまける、結局、毎年同じような野菜を育てることになるのだが、種をまく楽しみもいっこうに変わらない。いつものようにラデイッシュとルッコラから始めようか。そんなことを考えながら耕運機を手に取り土を耕し始めた。がたがたよろよろと進んでいくうちに、雑草が生えていた緑の空間がに何となく土色へ変わっていく。雑草が乾燥するのを待ち種をまく前に土をもう一度整えよう。きょうはここまで、と耕運機のエンジンを止め後ろを振り向くと、犬が梅の木の下で寝そべっている。重たい耕運機と硬い土に格闘している私など気にも留めずのんびり構え眼を細めている。明日のことは分からない、今を楽しんでます。そんな顔をした犬と今のこの瞬間の陽を一緒に浴びようと横に座り一服した。

4月を目の前にすると自然がいろんな色を庭に生み出し始める。黄色、白、ピンク、青と紫。次々と繰り出し踊りだすダンサのように木々の緑も加わり、今日はみな陽に照らされている。

 

思い思いに蕾をつけ膨らみ花を咲かせていくる様子は、舞台の幕が突然上がりだし眩しいスポットライトに照らされていくのを見るようで、わくわくせずにはいられない。はじまりはじまり。心の中で思わず呪文のようにつぶやいた。

青を取り戻した空。

その前で見事に咲いた桜の花。

 

春は踊る。

 

今年もこの花が見れてよかった。

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【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/

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