PROFILE
「モキチ」ことライター齊藤素子。銀座・泰明小学校卒業。OLやギャラリー勤務を経て、
1995年『VERY』創刊時にライター稼業を始める。食や旅のページを中心に雑誌やWEBで活躍中。
その一方で、世界初の腰痛専門WEBマガジン『腰痛ラボ』では編集長を務める。
京王・井の頭線「神泉」駅から徒歩1分。すぐです。
通りに面した半地下の店のガラスの向こうに見えるのは、明るくてほんわかと心地良さそうな店内と、楽しそうに食事をする人々の様子。入り口付近のカウンターに置かれたおでん鍋からほわほわっと湯気が立ち上り、店の前で優しくともる提灯の灯りに誘われて今宵も扉を開けたくなる……【日和】は、抗いがたい魅力に溢れたお店なのです。
以前、この場所は【日和】の店主・モッチこと望月清登さんの【酒と魚 mocchi】というお店でしたが、すぐ近くにある人気店、イタリア料理の【アウレリオ】の兄弟店として昨年、オープンしました。
前の店でも看板料理だった、柔らかな味わいと豊かな風味が持ち味の“おでん”は変わらず中心メニュー。そこに、旬の食材の旨味を生かしつつ、ひと捻り加えたモッチさんの料理と彼が選ぶ日本酒、そして【アウレリオ】のオーナー・大本陽介さんが選ぶナチュラルワインも加わって、美味しさと楽しさは数倍に広がったのであります。
「【酒と魚mocchi】をやっている頃から、望月さんは【アウレリオ】によく飲みに来てくれたんです。同い年ということもあって、飲食店経営の大変さや悩み、将来のイメージをはじめ、いろいろな話をするようになって1年くらい経った頃でしょうか。“じゃあ、一緒にやってみますか”ということになりました。そこから、どんなお店がいいのか、何をしたいのか、こんな風にしたらどうか……たくさん話しましたね。モッチのお店が終わってから、おでんの出汁を持ってきてくれた時に、その旨味とワインがめちゃめちゃ合うね! ということになって、方向性が決まりました」(【アウレリオ】大本陽介さん)
望月さんとナチュラルワイン、大本さんと和食と日本酒が出会ったことで、それぞれの世界はぐっと広がりました。目指したのは「楽で疲れない、日常に寄り添う店」。お料理はもちろん、日本酒、ワイン、店の雰囲気……すべてがそこに向かっています。
「【アウレリオ】が、月に1度か2度来ていただけることを目指すならなら、【日和】は週に1度か2度くらい立ち寄っていただけたらいいなぁ、と」(大本さん)
それでは【日和】のお料理と、それに合わせて飲みたいお勧めのお酒をご紹介しましょう。
席に座るとまず、新玉ねぎなど季節の「すり流し」が運ばれて来ます。これがじわっ?と優しく胃を包み込む感じになり、食欲アップ!
誌面で紹介したのはこちら「牡蠣の天ぷら 生のりあんかけ」¥1,400。磯のコンビ、生のりの香りも豊かな一品です。
「衣に青のりを混ぜる磯辺揚げも美味しいでしょう。チクワの磯辺揚げとか、そんなイメージです」(望月清登さん)
牡蠣は旨味も香りも強いので、それを包み込んでくれるような燗酒との相性が抜群です。
神奈川県・川西屋酒造の「隆 純米吟醸 無濾過 生原酒」神奈川県産、有機栽培で作る酒米「若水」を使用。吟醸香が豊かで、米の旨みと酸のバランスも絶妙。燗酒は、一合¥1,000~。
「いちごと菜の花の白和え」¥850
柿、シャインマスカット、トウモロコシ、キンカン、ブンタン等々、季節の食材を使った白和えは定番料理。和え衣もそれに合わせて微妙に変わるのだとか。今回はクリームチーズが入った洋風の白和え。「食材は、フルーツに限ってはいないのですが、お酒と合わせることを考えると柑橘系の酸味があったほうが寄り添いやすくなるのでよく使います。料理を考えるときに、ワインと日本酒に合わせることは常に頭にあって、僕は日本酒との付き合いが長いのでどうしても日本酒のほうがイメージが湧きやすい。日本酒と比べて、ワインの場合はよりいっそう“酸”が課題になるので、いろいろ工夫しています」(望月さん)
「店主おまかせ おでん五品盛り」¥1,200
玉子、しらたき、手ごね鶏団子、大根、竹輪の五品。日高昆布とカツオを使った澄んだ出汁はまろやかな味わいです。おでんと一緒にテーブルに運ばれるのは和辛子ではなく、麦味噌と和辛子で作った自家製の辛子味噌。これをつけて食べるとさらに美味しくなります。さりげなく添えられた飾り麩が、渋めの色合いのおでんに彩りを添えて楽しい。
「飾り麩を入れるかどうかで、最後まで望月さんともめたんです。実は、僕は入れない派でしたが(笑)、入れてよかったと思います。綺麗ですよね」(大本さん)
おでん種は、定番的なもの10種類前後と季節のおでんが3~4種類。プラス¥100でパクチーのトッピングもできます。
右・「イチゴと菜の花の白和え」にお勧めの白。「ランドロン/ミュスカデ アンフィボリット」グラス¥850 ヨーグルトのような乳酸と優しい味わいが白和えと好相性。
左・「デニス・モンタナール/レフォスコ ロザート」ボトル¥6,800 イタリア、フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州のナチュラルワイン。パワフルなロゼ。果実の厚さと広がりがあり、梅のような酸がおでんに合います。
「望月さんの作る料理の柔らかさに、ワインのほうが寄り添っていくことも多いんです。ナチュラルワインの中でも、日本酒や和食に近いキャラクターのもの、質感が綺麗でピュアなもの、赤ならエキス感や出汁感のあるものなど、味の広がりのあるものを選んでいます」(大本さん)
料理と日本酒担当、店主のモッチこと望月清登さんと、テキパキと店を切り盛りしながら、ワインも解りやすく説明してお勧めも提案してくれる河村祐里さん。
“日和”には“晴れたよい天気”とか、“何かをするのにちょうどいい天気”といった意味があります。【日和】は、ちょっと疲れたようなとき、嬉しいことがあったとき、友人とお喋りしながらたくさん食べて飲みたいとき、1人で食事したいとき、2軒目にも、どんな場面の気分にも寄り添ってくれる店。「今日は【日和】日和かな」と、思ったら神泉を目指してください。おでんとナチュラルワインと日本酒に心も体もほっと一息つけるはずです。
【日和】
東京都渋谷区神泉町2-9 シャルム神泉B1 /03-6416-9858
18:00~24:00(L.O.)、日休 ※要予約
撮影/牧田健太郎 取材・文/齊藤素子 編集/川原田朝雄
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筆者プロフィール:
「モキチ」ことライター齊藤素子。銀座・泰明小学校卒業。OLやギャラリー勤務を経て、1995年『VERY』創刊時にライター稼業を始める。食や旅のページを中心に雑誌やWEBで活躍中。その一方で、世界初の腰痛専門WEBマガジン『腰痛ラボ』では編集長を務める。