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【LIFESTYLE】パリ近郊 花とともに暮らす (68) 風を集めて

Update : 2022.04.03
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朝、ペンキのはげた古いノブを回し窓を開けた。

 

 

窓越しに入る朝陽と鳥の声。すっきりした気分で目が覚めたのは、起き抜けの窓から見える空が今日も真っ青で雲一つないからかもしれない。庭の真ん中にある水仙は好奇心いっぱいの子供たち。朝一番、嬉しそうにぴん、と首を伸ばし、行儀のいいふりをしながら、あちらこちらを眺めている。ぐずぐずしていたミントと野イチゴは、あくびをしながらそろそろ僕たちも、と背伸びをし始める。

空から陽気が路面電車に乗ってやってくる時間。

やんわりとしたひかりがどんどん庭の植物を包んでいく。

 

18C°。

 

退屈そうにしている犬を連れて散歩に出た。こんなにいい天気なのだから外の空気を思いっきり吸いたくなるのは犬も人間も同じ。お互いの足取りがいつもより軽く感じる。誰もいない道の真ん中で、鳥の声が響く。春をいっきに超えてしまったような日差しを正面にし思わず目をつむり、まぶたを再び開けた瞬間。あっ、と心の中で小さく声を出した。池の水際にひょろっと咲いているうす紫色の小さな花と目が合ったのだ。春に咲く野草の一つ、ハナタネツケバナ。確か昨日はそこにはいなかったはず。大きな木の下に毎年必ず群生するこの花の姿は愛らしくて、春色のワンピ-スを身に着け楽し気に歩く少女たちのように見える。毎日の散歩道で野草たちの声が生まれ聞こえだす季節。窓辺に飾りたいな、と摘み取る

 

 

季節は突然駆け出すことがある。ろくに助走などもせず目の前にある丘を一気に登ろうと勢いをつけ、まるで飛んで行くように駆け上がっていくのだ。ブレ-キなどというものを持ち合わせない植物。ゆっくりと楽しみたいと思っている人間の気持ちは置いてきぼりにされ、桜やモクレン、コデマリはあっという間に満開になってしまい、おまけにもうはらはらと散り始めている。芝生の上の小さな花びらの池。モクレンの花が落ちていた。今日咲く花、今日散る花。時間の花が次々と生れ去って行く。

 

  

 

麦畑に挟まれた田舎道を歩き進む。先頭を切るのはいつも犬。もう茶色い大地の色は見えず、ただただ麦の緑が輝いている。そして今日はその先に黄色い線が微かにひかれている見えた。

 

黄色い地平線。

風を集めて菜の花が色づき始めた。

 

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【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/

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