連載&レコメンド

【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす(59)新年と新月

Update : 2022.01.09
keyword:

元旦 

すっきりと目が覚めた。

窓からきっぱりとした太陽のひかりが差し込んでいる。早起きとは言えない時間、布団の上で思いっきり背伸びをする。そうだ、今日はお餅を食べる日だ。昨日の夜、子供は、パリで手に入れた切り餅を前にし待ちきれない様子をしていたが、やはりお餅は新しい年になってから食べるもの、有無を言わさずしまいこんだ。きちんと礼儀をつくし待てばそのおいしさは倍増する。

 

あるもので作る簡素なお雑煮でも、この土地で毎年、新年にいただけるのは有り難い。おまけに今日は嘘の様な晴天。久しぶりに裏庭のロ‐ズマリ-の葉ががキラキラと光る。窓辺の鉢のひび割れた部分からシダの葉のように生えている苔がみずみずしい。ほんわりとした陽気が漂う庭。お椀を手に取りながら窓の外を眺めた。

新しく年が変わる朝。何時もと同じように一夜が明けただけかもしれないが、やはりこの朝は特別だ。今日のように春を思わせるような空気の朝が来ても、庭一面が白い雪で覆われている朝だとしても、この日になると気持ちは一瞬ゼロに戻る。月並みのようでも、こんな風に白紙の時間をぽんと、投げかけられるようなことは一年でめったにない。

 

明るいひかりにつられ、知らぬ間にかかっていた薄いべ-ルが目からはがれ落ちたような気分と、やっと起きてきたのか、と言うような顔を私に向けた犬と一緒にセ-タ-1枚で裏庭に出た。道の方向から差し込む太陽を真正面にし立つ。精一杯の冬の太陽に照らされた庭、まぶしさに思わず目を閉じる。ぼんやりとみえる残像は何の木だろう。素早く目を開き確かめると裸の桜の木がいつもの場所に立っていた。

 

犬がのろのろと草や土の匂いを嗅いでいる。その中にふとボルド-色の花が見えた。クリスマスロ-ズ。その花はまだ硬く閉じている蕾だけれど茎を真っ直ぐのばしすっくりと立っている。突然嬉しくなり辺りを見渡すと秋に植えた水仙やムスカリの緑の芽が沢山土から顔を出しているのが見つかった。眠っていたような庭にゆるやかな波が立ち、その中から植物の生命が水のあぶくのようにぷくっ、と幾つか浮き上がって来たような気がした。窓辺のカシスの木に太陽の光りが真っ直ぐ届いている。その木の足元に犬が寝そべりだした。

 

 

数日後、新月が来た。

夜空には月がなく星がきれいに見える。月も今日がゼロ。また明日からだんだふくよかな姿へと移っていく。

窓辺のビオラや部屋の中の植物たち。何かがまた動き出している庭。

太陽や月と共に冬の日々は春に向かって歩いている。

 

 

【バックナンバー】(過去の記事は以下から読めます)

第一回
第二回
第三回
第四回
第五回
第六回
第七回
第八回
第九回
第十回
第十一回
第十二回
第十三回
第十四回
第十五回
第十六回
第十七回
第十八回
第十九回
第二十回
第二十一回
第二十二回
第二十三回
第二十四回
第二十五回
第二十六回
第二十七回
第二十八回
第二十九回
第三十回
第三十一回
第三十二回
第三十三回
第三十四回
第三十五回
第三十六回
第三十七回
第三十八回
第三十九回
第四十回
第四十一回
第四十二回
第四十三回
第四十四回
第四十五回
第四十六回
第四十七回
第四十八回
第四十九回
第五十回
第五十一回
第五十二回
第五十三回
第五十四回
第五十五回
第五十六回
第五十七回

【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/

NEW ENTRY

  • 2022.12.28

    「O2」大津光太郎さんの蒸すから自由でおいしい家中華⑥

  • 2022.12.22

    「O2」大津光太郎さんの蒸すから自由でおいしい家中華⑤

  • 2022.12.16

    秋の「界 松本」「手業」と「いい湯」をめぐる旅 Vol.2

  • 2022.12.16

    【Flower cycle Art】12月の花 かすみ草 /・・・

  • 2022.12.09

    【Flower cycle Art】12月の花 かすみ草/ ・・・

  • 2022.12.02

    【Flower cycle Art】 フラワーサイクリスト・・・・