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【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす(58)丸い時間。

Update : 2021.12.26
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コーヒーを飲みながら、窓辺の植物やぷつぷつとつくガラスの水滴を見ていた。

 

こつこつと時計の音が鳴る。壁にかかっているこの時計の音は部屋が静かな時に妙に大きくぶれたように聞こえる。壁を見ると長い針は12を指しているが、短い針は2を少し越している。いつの間にか針がきちんと回らなくなりこんな風におおよそな時を刻んで、もう何年もそのままで壁にかかっている。一分を争うようなことがないこともないが、そんな時にこの時計を見ながら行動を起こすことも余りないだろう。壁にかかっている時間を確かめるような «  »はこんな程度で十分なのかもしれない。

今日は突き抜けるような青空。もう少しでカレンダ-が新しく変わる、と思うと何だか訳もなく裏庭の手入れ、掃除がしたくなり外に出た。剪定した植物の枝や伸びきってしまったミントやセ-ジ、ハ-ブ達を切り整える。自分の背の高さを超えた大胆に伸びたブラックべリ-の枝は小さなハサミでは切れない。柄の長い大きな鋏を取り出しグイッ、と力を入れて切り落とした。小一時間ほどするとわさわさしていた空間がだんだんすっきりとし、庭を照らす晴れやかな陽の中で手も体もポカポカしてきた。

一年が終わろうとしている庭であれこれ、とりとめもなく仕事をするのが好きだ。雑草を抜きながら、くるくるといろんな思いが頭の中を巡る。確かこの辺りに去年の秋にドロップの球根植えたはずだ、とか小さかったアジサイが少し成長したな、とか、この一年の植物の移り変わりを感じたり、春一番花を咲かせる白や青、黄色などの球根の花々のことを想ったり。庭を行きかう時間をこんな風に手に取るように感じられるのは、植物の生命の根っこのようなものが見える今の静かな庭だからかもしれない。スクランブル交差点の真ん中に立ち、おもいおもいに歩く人々を見ているようにしばらくその空想と一緒に土をさわった。

庭から戻り家の中も少しは片づけようと部屋を見回した。積み重ねられた分厚い本の山が片隅にある。そう言えば季節を通し子供と花や葉を拾い集め新聞紙にはさみ、押し花にしたことを思い出した。重たい辞書や図鑑を取り外しそっと新聞紙をめくってみる。椿の葉と花、野草の黄色い花、ノコギリソウの葉。満月が繰り返された月と月の間を潜り抜け、セピア色に変わった植物が姿を現れた。水分の抜けきった植物の凝縮した美しさはし-んとした冬の庭の美しさに似ている。

 

庭の中で省かれることもなく流れる時間。

色とりどりの庭を待ちながら季節がまた丸く円を描いていく。

 

 

 

 

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【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/

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