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【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす ㊺べリーの季節

Update : 2021.07.18
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朝、大きなボウルを抱え裏庭に出る。

いつもならのんびり構えて過ごす時間だが今日はいつにもなく、そわそわして落ち着かない。この数日間、窓から見えるカシスの森がどんどん黒くなっているのを横目で見ながら仕事や雑用を済ませていたのだが、いよいよ今日こそは、と庭に出た。収穫の日。快晴の空を眺めそう決めた。このタイミングを逃せば黒い実はしわしわになってしまうだろう。自然は人間の都合などおかまいなしに、まっしぐらに進んでいく。他のことは潔く後回しにすることにした。

A

たわわになる実で長く伸びた枝がしなり地面についている。その枝をそっとつまみ上にあげてみると、幾つか実がぽろぽろと落ちてしまった。手の届かない場所もあり拾いきれるものではない。他にも山と言うほどついているのだが、一つずつにあの甘い幸せが詰まっていると思うと、何だか未練が残る。ボウルを枝の下に入れ黒く光る粒を指で柔らかくしごくように取っていく。力を入れなくても枝からすんなり離れ、するっと手の中に入るものも多い。

B1

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4月の花の時期)、蜂がここに盛んにやって来た。記憶の中のあの蜂の羽の音がふとよみがえり耳の奥の方で聞こえるような気がした。熟した粒がはじけ手が紫色に染まる。大きなつやつやした黒い粒を見るとついつい一粒、二粒と口に入れながらもボウルはどんどんその黒い実で埋まっていく。

 

 

カシスを初めて庭で食べたことを思い出す。ジャムやお菓子でしか食べたことがなかった小さな果実。ただ一粒を口に含んだだけで、酸っぱさと混ざり合った何とも言えない甘さが100倍にもなり広がる。こんなに素直でおいしいものがあるなんて。驚きと幸せが入り交ざり、いっぺんに大好きになってしまったのだ。

 

7月に入ると庭にべリが色づく。

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透明感のある真っ赤なグロゼイユ。口に入れると目が覚めるような鮮やかな酸味がプチンとはじけ、その後に微かに甘さが残る。花を切っていると、草や葉をかき分けた瞬間に赤や柿色のフランボワーズが偶然目の前に姿が現れたりすることも多々ある。その時が食べ時、迷わず手に取りほおばってしまうのだ。偶然にやってくる至福の時ほどうれしいものはないのかもしれない。

D

ポタジェ(菜園)に行くと、ズッキーニの黄色い花が咲く隣に実が一つがなっていた。今年初めてのその実をもぎ取る。植物が花から実に移り変わっていく季節が来たようだ。ビバーナムの木にも緑の実がつきだした。秋になれば赤く色を重ねたこの実を鳥がつつき出すだろう。

 

E

 

夏の庭。

様々な色の実が結ばれる時。

F

それぞれの色にそれぞれの味覚と美しさがが封じ込まれている。

 

 

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【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/

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