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【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす ㊷今日の風

Update : 2021.06.20
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コーヒーを入れて窓際のデーブルにつく。

 

外の風景をぼんやりと眺めた。

A

鳩がクークーと鳴いている。窓際の白いバラは待ちかねていたかのように次々と蕾を開かせ、零れ落ちるように咲き誇っている。緑色のキャンバスに白の絵の具を落としたように、バラの花びらが、ぽつんぽつんと芝生の上に落ちている。

 

B

何時もの朝、何時ものしぐさ。その中に夏の朝のひんやりした空気が見える。

まだ涼しい。今のうちに散歩をしようと犬を連れて外へ出た。まだ辺りはシーンとしている。その静けさを聞きながら、中庭の砂利の上をそっと歩き道に出た。

C1

C2

C3

 

後ろを振り返ると、朝陽が塀伝いに咲く小さなバラの蕾や花を優しく照らしていた。道を挟んだあちらの庭にもちらほらとバラが見える。バラが庭に咲き出すと風が春のページをひょいっとめくり、夏がいよいよ目の前に現れた感じがする。蜜を探す蜂のようにその香りを求めて庭に点在するバラの木々を巡った。

D

犬の思うがままに池の方へ向かう。遠くの方に淡いピンク色のツルバラが見事に咲いているのが目に付いた。その足元で何かがちらっと動く。ウサギが数匹。バラの見える特等席で気持ちのいいこの時間を過ごしていた先客は、私たちの足音を聞きつけて慌てたように麦畑の方に走り去っていった。

E

誰もいなくなった道を犬と一緒に大手を振って歩き、その大きなバラの前で立ち止まった。思う存分枝を伸ばし、そこに花がこんもりとついている。なんて惜しみがないのだろう。観客がいようがいまいが、そんなことなどおかまいなしで、毎年ここで、まっしぐらに花をつけるのだ。そして秋になるとその枝に真赤な実がなり鳥たちが盛んにつつき出す。名前も知らないこのツルバラを見ると得体も知れない何かにいつも心は動き、ひたすらその姿に圧倒される。

F

ここに引っ越し、庭の花や枝を自ら切り束ねるようになった13年前のことを思い出した。生きている植物の中で暮らし出してみると、少しずつ何かが変わったような気がする。人間の思惑などに収まらない野性。どんな小さな花にもそれがあり、季節を通してそのようなものを日々の中で感じるようになったからかもしれない。けれども、その生を切り取ることはやはりどこか決心と勇気がいる。そしてそれをあるがままに生き生きと束ねることは何時まで経っても、もっと難しい。

G1

G2

夕方の空気を吸いに散歩へ出かける。

鳥たちが小さく鳴いている。今朝見たツルバラが夕日に照らされていた。

 

辺りに甘い香りのする微風が吹く。

 

明日はどんな風が吹くだろうか。

 

 

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【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/

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