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【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす㉞水の反映Reflets dans l’eau

Update : 2021.04.18
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21時

夕方ぽつぽつと降り始めた雨が突然、激しくなった。

窓ガラスに当たる雨音が早まり、はっとする様なクレシェンドの後に、ストンと音量が落ちる。そして、しばらく微かな小雨が聞こえていたが、また小石を叩き付けるような音が耳に響いた。ベランダにいる犬が迷惑そうに耳を垂らしている。久しぶりの雨、揺れ動くその雨を聴きながら夜が過ぎた。

A

朝になると雨音は陽気な鳥の鳴き声に変わっていた。

昨日の夜が嘘のような良い天気。庭には桜の代わりに、ピンクの林檎の花が咲き始めた。フリチラリアやチュ-リップも姿を見せ花のバトンタッチが次々とされている。

B

池の方へ歩いて行くと道の上に、木、らしきものが見えた。雨が降ると必ずここに水たまりができる。道にできたその水たまりの鏡に映る逆さまの世界を覗いていると、目の前を素早く何かが横切った。ツバメ。春になりどうやら戻ってきたようだ。池の水面の上をすいすいと気持ちよさそうに飛んでいる。

C1

C2

去年の夏、猛暑が続き、カラカラに干上がってしまったこの池は随分長い間水がなかったが、秋と冬の間に降った雨と雪で少しずつ水がたまり、何とか今は池、と呼べるくらいになった。しばらく姿を消していた野生の水鳥、バンやカモも戻ってきていて嬉しい。もう少しすれば小さなひな鳥たちが一列に並び歩く姿に出会すだろう。

D

水は生命の源。

水がある所には生き物がいる。池の淵にある野生のバラの茂みには、いつも雀が群れていて、雑草やへデラ蔦がのびのびと生い茂っている。そう言えば昔、そこにある木の幹の空洞にカモが巣をつくり、卵を温めているのを犬が見つけ出したことがあった。同じ場所をそっと覗いてみたが、中は空っぽで誰もいなかった。

 

E

水面に陽のひかりが反射してゆらゆらと見える。《水の反映》と言うドビュッシ-のピアノ曲が頭に流れる。ラヴェルの《水の戯れ》に刺激を受けて作られたというが、ラヴェルのその曲の研ぎ澄まされたひんやり冷たい水とは違い、ドビュッシ-が描く世界はもう少し暖かい。春の日差しに照らされた、暖かく平穏な生命にあふれている、今自分の目の前にある水に近い感じがした。

 

数日前裏庭に種を蒔いた。

退屈な芝生を草原に咲くような花々に変えてみたくなったのだ。昨日の雨でふわふわになった土と一緒に種が水を十分含んでいる様子を想像する。

F1

種を蒔く楽しみは水をやることから始まる。そして待つこと。

 

F2

 

雨と晴れ。花や種ががぐんと背伸びをしているに違いない。

そしてその間に想像の種に水をやり、今にも飛び出しそうな花たちを、むずむずしながら待っている。

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【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/

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