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【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす㉗風景

Update : 2021.02.28
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ベランダから庭に出た瞬間、ひらひらと空を舞う黄色い蝶が目に飛び込んだ。

今年初めて見るちょうちょ。道でばったり、久しぶりの友人と出会ったかのように気持ちが小躍りする。この黄色い蝶は冬の間でも、成虫のままへデラ蔦などの葉の中に隠れて冬越しをすることがあるらしい。この前の雪を生き抜き、陽気につられて飛び出してきたのかもしれない。確かに暖かい。今日はコ-トを着るのを忘れてしまいそうだ。

 

A

二階の窓を大きく開くと、海のように広がる麦畑が、明るい日差しに照らされているのが遠くに見えた。太陽は気分を変えて過ぎ去ってしまうかもしれない。ふらふらとそちらへ行ってみたくなり、その田舎道を歩くことにした。

B

何処までも伸びる麦畑の中に、こんもりとした小さな森がぽつん、ぽつん、とある。その中の一つを目指し歩き出す。

C

緩やかに曲がりながら続くこの道は馬の散歩道だ。土の上に残っている蹄の跡を追っていくように進むと、その傍に又、別の足跡が見える。鹿の足跡のようなものが点々と続き、畑の中に消えていく。この麦畑に時折姿を見せる動物たちは、きっとあの小さな森に棲んでいるのだろう。車で家に戻る途中、道を横切るイノシシに出くわし、ぎょっとしたことを思い出した。今、目の前に数匹の野ウサギが見えるだけだが、隣に犬がいると思うと、どこか安心している自分がいる。

 

普段、車に乗りながら何となく目に入ってくるこの風景は、どこかのっぺらぼうな感じがしていた。現実にそれをより親密に感じるには、やはり今日のように、足で歩く速度が一番だな、と思う。

 

麦畑に挟まれたその田舎道の先の、遠くに見える地平線に空が落ちている。

距離感のつかめないほどの彼方を眺めていると、たちまち気持ちが大きく開かれるように感じたが、同時に自分が地球上に住んでいる、人間、と言う一つのちっぽけな動物でしかないことにも気が付く。遠くに目線を向けることで、いろんなことを感じる自分がいたが、たった一種類の植物が、広大に伸びる麦畑の風景に居心地が悪くなりはじめ、家に戻ることにした。

D

うねるような坂道を下っていくと町にある高い教会の塔が見える。随分遠くまで来てしまったようだ。

 

家に戻ると裏庭に小さな野草の青い花が咲いているのに気が付いた。陽気と共にタンポポやヒナギクの姿も見える。

E 1

野草が共存する風景。

雑草がいる場所と人間の手が加えられた場所との境界線が曖昧なことにほっとする。

 

F

野草たちが春の息吹を連れてきてくれた。

 

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【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/

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