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【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす㉖雪の後

Update : 2021.02.21
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朝一番、台所の窓から燃えるような朝日が見えた。

A

カウンターでいつものようにコ-ヒ-を飲み終え、立ち上がった。

さて、今日はどんな日だろうか。

みるみるうちに日が昇り、一日が始まる。

空気がほわっと、暖かい。昨日とは違う。

裏庭に面する壁面いっぱいの大きな窓の前で思いっきり背を伸ばす。舞い戻った寒さに縮こまっていた身体が自然と緩み、思わず両手が上がった。

積もっていた雪が消え、窓から見える庭は、瑞々しいみどりに戻っていた。五日間の真冬のタイムトラベルから戻り、春に向かう舟にもう一度乗り換えだ。

鳥のさえずりが昨日よりもにぎやかで明るく聞こえるのは気のせいだろうか。

窓から見える林檎の木、そこに吊り下げた鳥の餌箱に、鳥たちがひっきりなしにやって来る。突然の雪、食べ物を見つけるのは大変だろうからと、子供がいつもより多めに入れたシード類の餌がまだ少し残っていたのだ。窓辺に置いた皿にも鳥はやって来た。

 

B

喉がオレンジ色のおっとりした鳥、やせっぽっちで、せっかちそうなシジュウガラ。一心に餌をつついている鳥を追い払うように飛んでくるもう一羽。鳥の社会にもいろいろありそうだが、それぞれ、何とか皆、自分の気に入った場所を探し出し、くちばしを忙しく動かしている。食べる物の少ない冬の間は餌をあげているのだが、春になれば自力で虫や種を探し、こうして生きているのだろうな、と思う。

 

C1

雪が降る前に芽を出していた花々が、この寒さでどうなったか気になり庭に出る。

裏庭のクリスマスロ-ズは、やはり、花びらが傷んだり、茎が折れてしまっているものが少しある。けれどもほとんどの花はしっかり立ちあがっていた。窓辺に植えたヒヤシンスが相変わらず可愛く花芽を覗かしていた。元気だ。春に咲く球根類のチュ-リップや、ムスカリも同じくシャキっとしていて、ほんの少しばかり成長したかのようにも見えた。まだ2月なんだから、こう言うことがあっても当たり前、ご心配なく、と応える植物の声が聞こえてきそうな気がした。

D

時には驚くような変化をしていく自然のリズムの中で育つ庭の花たちは、私が想像する以上にたくましく、生き抜く術を備えているのだろう。けれども子供の成長を見るように、ついつい、それを確認したくなる。

 

細長い葉を真っ直ぐにぴん、と空に向けている水仙の群生の中に蕾を一つ見つけた。まだ硬くて緑色だ。先頭をきって勢い良く走り込んでくる子供を見るような感じがしたが、だからと言って得意がっているふうにも見えない。それに連れられて、次々と花が現れ、その一番の花が散ってしまう頃に咲きだす花もあったりするだろう。

 

それぞれが、それぞれのリズムで。

それが自然界のル-ルなのかもしれない。

 

E

折れてしまったクリスマスロ-ズを摘んだ。

 春はもうすぐ。

あふれるように花が咲きだす季節が待っている。

 

 

 

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【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/

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