野菜園芸を始めて、15年ですが、実はナスに取り組んでみたのは今年が初めてでした。
理由は、①嫌いじゃないけど、そんなに好きな野菜ではない ②他の夏野菜に比べると大した栄養がない ③周りの家庭菜園利用者はみんな作ってるから、あえて違う野菜を作りたい でした。ただ、③については小生も50になって考え方も変わりました。もう少し普通の人間を目指そうと思う今日この頃、皆がすなるナス作りというものを我もしてみむとてすなり。
ナスは通常、ホームセンターなどで苗を買って、それを畑に植えつけます。
種から育てるためには暖かくなってからでないと発芽しないし、かといって、その時期を待ってから育てると収穫の時期が遅くなって、それはそれで気温が低くなって実が育たないのです。ホームセンターで苗を買って植え付けるのは大体ゴールデンウィーク前が目安です。小生も4月30日に苗を植え付けました。<写真は、奥がナス。手前はパプリカです>
植え付け後は、しばらくは元気なさそうに見えるのですが、これは、どの野菜でも同じです。なので気にせず、ほったらかしにしておきます。ほぼ1週間後の5月5日もこんなにクタッとしてました。↓
ところが、ぐんぐんと元気を取り戻し、5月13日には最初の花(一番花)が咲きました。花がついたあと、そこに実がなるのですが、最初に咲いた花からできた実は小さいうちに切り取って排除します。残しておくと、そこだけに養分が集中されて、次の花や実の成長を妨げてしまうからです。
それにしても、ナスの花は美しい。
果菜の花にしては大きいほうだし、紫色の花びらを目一杯開かせる様子は健気です。ただ、いつも花は下を向いています。美しいのにあまりアピールしません。
そのあたりがまた奥ゆかしい感じで、いとあはれ。
なぜ下を向いてるかというと、それには単純な理由があって、雄しべから花粉が落ちる時に雌しべにつきやすくするため。つまり受粉しやすくするため。他の野菜の花は、虫や風に受粉を委ねるものも多いのですが、ナスは他人任せにはしません。花の1つずつが自分でどうにかしようと頑張ります。まあ、トマトやピーマンの花にもそういう性質はあるのですが、ナスの場合は花が大きいせいか、その様子が特に極端に見えます。
植え付けから2カ月もするとナスの収穫ができるようになります。一株から、最初は2~3個程度ですが、そのうち毎週5~10個ぐらい取れるようになります。育て方次第ですが、最終的には、一株からトータルで20~40個ぐらいは収穫できます。
ただし、今年は不作でした。
一番の原因は、梅雨の時期が短かったことかと。そして、その後に続いた真夏の乾燥です。ナスはもともとインドが原産で、とにかく高温多湿のモンスーン気候ならではの野菜。だから水分がたっぷりと必要なのです。日本の路地で育つうえでは、梅雨の長雨はとても大事。ところが今年は、ほぼ空梅雨だったうえに、真夏はあの猛暑でした。毎日、まめに畑に通って水やりを欠かさなければよかったのでしょうが、さすがに小生も平日はサラリーマン編集者。水やりはせいぜい週末ぐらい……。
その結果、このような「石ナス」が増えてしまいます。
まあ、このようなナスでも美味しく食べられるんですけどね。ナスは特に味の濃淡というよりは、食感が大事なので。瑞々しさが足りないので漬物には向かないかもしれませんが、皮を取って、炒め物で食べるぶんには全然問題ありませんでした。(栄養は皮のほうがあるんですけどね……)
そして、今年はもうナスはダメだな……と思っていた矢先、晩夏になって、台風がどっとやってきたり、秋雨前線がじわじわと訪れたりすると、ナスは最後の力を振り絞ります。
いわゆる「秋ナス」です。↓ こちらはともに、9月23日に収穫。
なんか、最後になっていいナスが収穫できた気分です。
やはり、雨で土壌の水分量が上がった効果なのでしょう。
ですが、この時期になると株もだいぶ疲れてきます。葉っぱも虫に食われたり、実に栄養を回すために、葉っぱの青々しさはなくなってきます。かさかさした感じになります。
「まだ、花も咲いているし、いいナスができてるのだからもうちょっと育ててみよう」。
そう思いたくなるのはやまやまなのですが、ここは心を鬼にして、株を処分します。
10月からは気温も下がっていくので、もう成長は期待できません。そしてなによりも、秋には秋の野菜を育てなければなりません。場所を譲ってあげないと次の野菜たちが活躍できません。春から付き合ってきたナスとのお別れ。ちょっと辛いですが仕方のないことなのです。
「来年はもっと上手く育ててあげたいな……」
そんなことを思っていると、処分したナスをねぐらにしていたカマキリ君が登場。
このカマキリ君、8月くらいから何度かお会いしているのですが、ずっと私のナスの株から離れなかったのです。居心地がよかったのかな? だとしたら嬉しいな。
おそらくカマキリの中でも最大種のオオカマキリのメスです。お腹もパンパンに膨らんでいるのでもうすぐ産卵でしょう。もちろん、そばの草むらに逃がしてあげました。
カマキリは私たちファーマーにとってはありがたい存在。せっかく育てた野菜をむしゃむしゃと食べるイモムシやカメムシといった害虫を退治してくれる肉食昆虫。つまり益虫です。
可愛いことに、私たち人間を「ガン見」します。
こんなに人間に興味を持って「ガン見」してくれる昆虫は、小生の50年の昆虫体験の中でもカマキリぐらいです。
ナスのおかげでカマキリともコミュニケーションが取れた。
いろいろあったけど、いい夏でした。
撮影・文/川原田朝雄