杜の都のモリのチチ

PROFILE

森公美子(もり くみこ)歌手。1959年7月22日生まれ、宮城県出身。
テレビ、ミュージカル、オペラなどで幅広く活躍。食通ならではの知識とセンスを生かし、
HERSでは2011年5月号~2014年3月号まで料理ページの連載を担当。

第二十五回 いじめっ子撲滅作戦!

いじめというものは昨日今日の話ではなく、人間が誕生した時からあったのかもしれません。
小学生のいじめ問題は今や大問題。いじめた側が悪者になるのは当然ですが、理由もなくいじめるのが昨今のいじめ。でもフミコの時代には、いじめる側にももう少しちゃんとした理由がありました。
フミコは毎朝登校するときに、出会った人には誰にでも「おはようございます」と言うようにチチとハハから言われていたので、知らない大人とすれ違うときにも「おはようございまぁす!」と挨拶していました。すると相手は少し驚きながらも笑顔で「おはよう! 元気がいいね!」と言ってくれるので、フミコはさらに「ありがとうございます」と返します。それが毎朝の決まりごとでした。

ある日、全校朝礼のときに校長先生が言いました。
「うちの小学校に通う女の子が毎朝大きな声で『おはようございます』と言ってくれるおかげで、毎日気持ちよく仕事に行けるというハガキが届きました。先生もその子は素晴らしいと思います。皆さんも知らない人に対しても挨拶ができる小学生になってほしいです」
フミコは〈自分と同じことをしてる人がいるんだ。へぇぇぇ!〉と思って聞いていましたが、そのうち校長先生に呼ばれて「さぁ、みんなの前で、大きな声で『おはようございます』と挨拶してごらんなさい」と言われました。
急にそんな展開になって、恥ずかしくなり、小声になってしまったフミコ……。
高学年からは「聞こえねぇぞぉ」と野次られるし、同級生には「いい格好しい!」って言われるし、踏んだり蹴ったりの朝礼でしたが、まさかその後、さらにいじめが始まるとは……。
教室に戻ると、ある男子生徒が「『おはようございます』程度で、褒められるとはな? そんなことなら俺だって簡単にできるぞ!」と口火を切りました。「そうだ、そうだ!」「俺だって!」と寄ってたかって声を上げる男子生徒たち。余りにもひどい言い方に我慢ができなくなり、フミコはついに泣いてしまった。
ところが、その様子を見て、いちばん前の席に座っていた祥子ちゃんがサッと振り向き、男子生徒たちに向かって啖呵を切りました。
「『おはようございます』が言えるなら『ごめんなさい』も言えるんだろうな!」
普段は寡黙で、いつも本を読んでる祥子ちゃんが大きな声で言ったのです。余りにも凄い迫力と声の大きさに、フミコは涙が再び目に戻りかけてきました。祥子節は続きます。
「『ごめんなさい』も言えねぇ奴が、知らない大人に『おはようございます』なんて言えるわけねぇだろうが。そんな勇気、お前らには、ねぇんだよ! それをネタにしていじめることしかできねぇお前ら。ここに土下座して、フミちゃんに謝れ!……(まだ続く)……、謝る勇気も持ってねぇなら、人のことバカにすんじゃねぇ……お前らみてぇな勉強も何にもできねぇ奴らは、人の役に立たなくてもいいけど、そのぶん人の邪魔すんじゃねぇ!わかったか! 土下座しろ! 早く。もたもたすんじゃねぇ!」
余りにも強い調子でまくし立てられ、すっかりビビッた男子生徒たちは肩を落として次々に土下座をしながら言った。
「ご、ごめんなさい」
「ごめんなさい……」
「ごめん、なさいっ」
祥子ちゃんはフミコのそばに寄ってきてささやきました。
「これで恩は返せたかな?」
「え?」とフミコ。
そう、余りにも凄いベランメイな江戸言葉からわかるように、祥子ちゃんは3年生のときに東京から転校してきたのですが、最初はいじめられていた彼女を、フミコがホウキやゴミ箱で応戦して、 守ってあげたことがあった……のかも?

始業ベルが鳴り、1時間目が始まりました。祥子ちゃんはいつもの祥子ちゃんに戻り、物静かに勉強し始め、私や男子生徒は涙目で、授業に参加。しばらくすると先生が異変を嗅ぎ取り「なんか? あった?」と。
祥子ちゃんは即答。
「別に変わりはありませんが、フミちゃんが毎日している素晴らしい朝の挨拶を、私たち4年2組のみんなでやってみたらいいかなぁ、って思いました」
「あ! そうだね! 先生も祥子ちゃんの意見に大賛成。みんなはどうかな?」
そのとき、祥子ちゃんは後ろを振り向いてクラスをくっきり、しっかりと見回しました。
全員が 「さ、ささささ賛成」。
祥子ちゃんの眼力の勝利でした。
それ以来、祥子ちゃんとフミコは大の仲良しになり、いじめっ子撲滅作戦を決行しよう!という話になりました。下級生も含めて周りの女子たちに「誰かにいじめられたら私たちに必ず言ってね。悪を成敗してあげるから」と声をかけました。正義の味方になったつもりでした。

早速、1件の相談がありました。1学年下の女の子で、事情を聞けば、その子は【木町庵】という蕎麦屋の子で、天婦羅がお弁当に入っていると笑われたり、体から出汁の匂いがすると言われたり……。まあ結局は、大きな蕎麦屋さんに対する普通の家庭の女子たちのやっかみが、悪口、そしていじめへとつながってしまったのです。
祥子ちゃんとフミコはいじめっ子のいる3年生の教室に行き「◯◯さん、ちょっと来て。なんでそんなにいじめるの? 教えて? 彼女の何が嫌なの? あなた、いじめられてる人の気持ち、わかる?」と問いただしただけで、その子は泣き出しました。それでも祥子ちゃんは続ける。
「泣くってことは、いじめてるのを認めたってこと。確信犯だな……。今度いじめたら警察に言うからね。あんた、犯罪者になりたくはないだろう? わかったな!」
〈祥子ちゃん、警察まで持ち出してきた……。ただのいじめで〉と思うと、フミコは少し怖くなってきました。
それでも下校時になると、そのいじめっ子のいるグループ3人が私と祥子ちゃんに向かって校舎の陰から「バーカ。バカバカ」と言っ
てきました。
「ガキって、バカの他に言葉を知らないんだよねぇ。フミちゃんも相手にするんじゃないよ。しばらく言わせておきな」と言っていた祥子ちゃんでしたが、だんだんその3人の声が大きくなると、サッと振り向いて韋駄天のごとく走り、あっという間に3人を捕まえます。
「フミちゃん、警察呼んで!」と半笑いの祥子ちゃん。またしても祥子ちゃんの勝利。フミコより早く、たまたま近くを通りかかったおまわりさんを見つけた祥子ちゃん。
「この子たち、いろんな子をいじめてるのよ。ハイ、おまわりさんからもひと言、お願い。おまわりさんたちが出前を頼んでる【木町庵】の子も、この子にいじめられてんのよ!」
「そうか。これからもいじめを続けたらおまわりさんが怒るぞ!」とおまわりさん。
「はい! これでわかった? もうしないよね? 刑務所行きたい? 行きたくないでしょ? はい終わり」と祥子ちゃん。

その帰り道に「祥子ちゃん、凄いねぇ、強いねぇ」とフミコが聞くと、祥子ちゃんは答えました。
「強くなんかないよ。力もないし、体も小さい。でも、言葉を持つと凄く強くなれるんだ。人を喜ばせることもできるし、悲しませることもできる。言葉って、力あるんだよね。だから私は本をたくさん読んで、自分を守るための言葉を探してるの。でもフミちゃんがやってる『おはようございます』ができなくてね……。知らない人にも優しくする勇気。フミちゃんは凄いよね。私は言葉の専門家になろうと思うの」

その後、ほどなくして祥子ちゃんは再び東京に転校していきました。反いじめ同盟として活躍した2人でしたが、あまりに成敗しすぎて、祥子ちゃんがいなくなってからというもの、フミコは逆にいじめっ子のレッテルを貼られてしまう始末……。

一方、のちの祥子ちゃんは現役で日本でいちばん難しい国立大学に合格し、在学中に司法試験合格。現在は現役の検事です。

<つづく……>

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