杜の都のモリのチチ

PROFILE

森公美子(もり くみこ)歌手。1959年7月22日生まれ、宮城県出身。
テレビ、ミュージカル、オペラなどで幅広く活躍。食通ならではの知識とセンスを生かし、
HERSでは2011年5月号~2014年3月号まで料理ページの連載を担当。

第十五回 ツイッギー来日!

新しいものが大好きで、ミーハー根性に満ちたチチは、ライフスタイルにもそれなりにこだわりがありました。しかし、ハハは女将の仕事から離れた時間は全くの無頓着人間。幼いながらフミコも〈よくこの2人が夫婦になったものだ〉と、いつも感じていました。

そんなことを感じ始めていた頃に、イギリスから大スターが来日します。1967年10月18日、晴海の国際見本市で行われていた第14回東京モーターショーに登場したのは『ミニの女王』、ツイッギー。前年に来日したビートルズは見に行かなかった父ですが、この時ばかりはわざわざ1泊2日で東京まで行き、ゴールドのトヨタ2000GTの前で大きな瞼をパチクリパチクリさせるツイッギーの姿をしっかりと目に焼き付けてきました。
ゆったりしたパフスリーブのひらひらしたミニワンピース。その上に羽織っているのはちょっとワイルドな印象のベスト。足元はロングブーツ。さらさらの金髪ヘアはショートカット。目力を一層際立たせる長いまつ毛……。
「フミコ、フミコッ……。フミコもツイッギーを見習わなきゃダメだ」
東京に戻ってきたチチは、まだ興奮冷めやらぬ様子で開口一番にそう言いました。
「ツイッギーって、そんなにキレイ?」
「キレイだけど、これからの女の子はキレイなだけじゃダメだ。オシャレで可愛くて、でもカッコいいんだよ」
「可愛いのにカッコいいなんて、よくわかんないよ」
「ツイッギーはね、可愛いのにチョッキを着て、ブーツを履いて、まるで現代のロビンフッドみたいな格好だった……。これからは、ああいう女の子が流行るんだよ、きっと」
「でも私に似合うかな? ガイジンさんだから似合うんじゃないの?」
冷めたことを言いながら、フミコはちょっとチチに感心した。世の中の男の人たちはミニスカート目当てにツイッギーを見に行っているのに、チチはそんなことより全体的なファッションの様子や女の子のトレンドの流れを分析しようとしている。さすがチチだ。そういえばチチはオシャレなのかな。白のタテ目のベンツに乗る時は、英國屋で仕立てた白のスーツにボルサリーノの帽子で決めているし、繁華街を歩く時は綺麗に畳んだコウモリ傘をステッキ代わりに持ち歩いているし、「ダンディズム」というのが口癖だし……。そんなことを考えていると、傍にいたハハがひと言。
「どうだかね。テレビのニュースで見たけど、ツイッギーは5分間しか出てないらしいべ。それなのに500万円もギャラをもらってるらしいよ。まだ18歳の女の子だよ。チヤホヤしすぎだべ」
チチは反論する。
「なにさ、本物見でねえのに、あんだ、わかんねえべ」
うーん、確かにハハの意見も一理ある。1分間で100万円ももらえるなんてどうなんだろう?そういうお金をもっと違うことに使えれば、貧しい人たちが少しでも楽になるかもしれない。それにツイッギーだって、この後の人生はどうなるんだろう? ハタチになっても、30になっても、40になっても、このままお金をたくさんもらい続けるのだろうか? だとしたらすごいけど、そんなわけもねえべ。あ、そうか、だから老後に備えて今から貯金してるのかな……。

「とにかく、フミコもファッショナブルでなくてはダメだ」
そう決意したチチは、翌日、早速フミコを連れて買い物に出かけます。目指すは老舗百貨店・藤崎の子供服売り場。
〈どんな服を着させられるのだろう……〉
〈わたし、ツイッギーみたいに痩せてないよ、まだマリリン・モンローのほうがいいな……〉
〈髪までバッサリ切られたらどうしよう……〉
藤崎がある一番町までは歩いて15分ほどの距離でしたが、フミコにとっては気が重くて長い道のりでした。
一方、ウキウキ気分のチチは藤崎の正面ドアを開けるなり、ステッキ代わりのコウモリ傘を右手の人差し指でクルッと1回転させて颯爽と入場。チャールズ・チャップリンさながら、小刻みにスタスタと子供服売り場へ向かいました。
「いらっしゃいませ。お客さま。今日は何をお探しですか」と伊東ゆかり似のデパートガールに声をかけられたチチは、再びステッキ傘をクルリと回転させてひと言。
「ロビンフッドみたいな服はありますか?」
「わかりました。お待ちください」
なんと、それだけで通じるってか? さすがにツイッギー来日の余波がここ藤崎にも……。
「お、お待たせいたしました。ロ、ロビンフッドですと、このTシャツと靴下、それにバッグがございます。ト、トムとジェリーなら他にもたくさんあるのですが……」
息を切らしてすぐに戻ってきた“伊東ゆかり”に唖然とするチチとフミコ。彼女が持ってきたのは、当時テレビで放送されていた『トムとジェリー』に出てくるロビンフッドの絵が入った商品。いわゆる”キャラクターもの”だったのです……。

<つづく……>

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